*** 無痛分娩の事故・ニュースのこと:麻酔科医の観点からの検証2 ***
この章では報道されている順天堂大学病院での無痛分娩ニュースを受けて、関連するトピックを紹介させていただきます。
症例の詳細を完全に把握できるわけではないので、コメントできる範囲での解説を心がけています。
以下のコメントは、特定の方の責任問題を追及するものではありません。
また、医療行為における合併症と、医療事故、医療過誤は、それぞれ異なる概念のものであり、このケースにおいてそのいずれかを示唆するものではありません。
ニュースの詳細
順天堂大学病院で平成27年、無痛分娩中のお母さんが、子宮破裂となり緊急帝王切開をされましたが、赤ちゃんは残念ながら死産となったという症例です。
お母さんは一時心肺停止状態になりましたが、麻酔科の先生が常駐していて必要な救命措置をとったことで、お母さんの命は守られました。
順天堂病院の取り組み
順天堂大学病院は、無痛分娩を24時間体制で提供している全国的にも数少ない施設一つです。(***無痛分娩が24時間体制で受けられる施設の比較 :都内編***を参照)
麻酔科には、産科麻酔チームが配属されており、年間769人(2016年度)のお母さんが無痛分娩を選択しています。
これは全体の78%(無痛分娩769件/総分娩数1267件)で、日本全体の無痛分娩の割合が2.6%(2008年)と考えると圧倒的な割合であることがわかります。
ハイリスクの分娩も多く取り扱っており、地域の周産期センターとしての役割を果たしています。
子宮破裂と無痛分娩
子宮破裂とは分娩中に起きる子宮の裂傷です。頻度としては3000分娩中1例と低いですが、一度起きるとお母さんも赤ちゃんも命に係わる緊急事態となります。
子宮破裂が起きると、ただでさえ辛い陣痛は、より異常な痛みとなります。
激しい腹痛を訴えながら、お母さんはショック状態になります。このとき無痛分娩で硬膜外麻酔が効いていると、痛みがマスクされるため、症状から子宮破裂が起きたことに、気付きにくくなるという面は確かにあります。
ただお母さんの腹痛以外の症状、バイタル(心電図、血圧、酸素飽和度)とCTGモニター(胎児の心音変化と子宮の収縮を記録する機械)から、異変に気付くことができるはずです。
このモニターは直接お母さんにセンサーとバンドをつけて計測するわけですが、お母さんの肥満が強い場合などは、赤ちゃんの心音がうまく拾えない場合があります。
(stanford children’s healthサイトより)
子宮破裂が起きた時は、ショックの治療をしながら緊急帝王切開に進みます。
破裂した子宮は可能な限り修復して温存したいのですが、出血のコントロールがうまくいかない場合は、止むを得ず子宮自体を摘出しなげればならないこともあります。
このような緊急事態でも麻酔科医が常駐している施設であれば、産科医と麻酔科医が連携をとって非常事態に対応できます。
無痛分娩では、緊急事態では特に、チーム医療がより重要となります。
順天堂大学病院のようにチーム構成をしていけるためには、分娩が大きな施設に集約化(***日本は無痛後進国***)していくことが必要です。
個人でのクリニックで緊急対応が必要になっても、必要なマンパワーと物品・資材が間に合わない場合があります。
十分な物品と人員配置が、アウトカムの改善に繋がるのです。
この章では順天堂病院の無痛分娩ニュースを受けて、関連するトピックを取り上げて紹介しました。