*** 無痛分娩の事故・ニュースのこと:麻酔科医の観点からの検証4 ***
この章では、ニュースで取り上げられている、京都のふるき産婦人科医院での無痛分娩訴訟のニュースについて、検証させていただきます。
今回の訴訟の流れは、以下の通りです。
硬膜外無痛分娩を受けたお母さんが、その後帝王切開になりました。
生まれてきた赤ちゃんは、分娩時になった低酸素状態の影響で、脳性麻痺という重度の障害を負いました。
赤ちゃんが脳性麻痺になったのは、無痛分娩の際に適切な診療を行わなかったクリニックの管理責任だということで、赤ちゃんのご両親は1億円の損害賠償を請求する訴訟を起こしました。
その訴訟の京都地裁での判決が、3月27日にありました。
結果は次の通りです。
「管理した医師は、診療行為に過失はあったと認められたものの、無痛分娩と脳性麻痺に直接の因果関係があったとは考えにくい」
このように判断されて、賠償については棄却されました。
診療行為過失とは具体的に
CTGモニタリング(胎児心拍陣痛図)が持続的にされていなかったことを指摘されました。
(***CTGモニター(胎児心拍陣痛図):新たなモニターの発展に向けて ***参照)
確かに、分娩中にCTGをモニタリングすることは重要です。
実際に無痛分娩中には、お母さんと赤ちゃん共に絶え間ないモニタリングすることが、アメリカのガイドライン上でも推奨されています。
(アメリカ麻酔学会、アメリカ産科麻酔学会より)
このモニタリングを怠った点で、注意義務違反としての過失は確かにあったと考えられます。
ただし、医療の発展により、CTGの装着が分娩でルーチンに行われるようになってきたわけですが、これによって分娩の帝王切開率は上昇しているものの、周産期において児の予後が明らかに改善しているというエビデンスは実は低いのです(!)
CTGは、赤ちゃんが元気なことを評価するのには良いデバイスですが、必ずしも赤ちゃんの具合が悪いことを鋭敏に反映するほどまでには優れていないのです。
そんな背景はあるわけですが、
やはり今回のニュースから、安全に無痛分娩するためには、ルーチンのモニタリングが必要不可欠であるといえます。
本サイトmapaternityでは、無痛分娩に関する他の事故・ニュースについても取り上げていますので、そちらもよければ参考にしてください、
(***無痛分娩の事故・ニュースのこと:麻酔科医の観点からの検証1 ***)
(***無痛分娩の事故・ニュースのこと:麻酔科医の観点からの検証2***)
(***無痛分娩の事故・ニュースのこと:麻酔科医の観点からの検証3 ***)
いかがでしたでしょうか。
訴訟事例から浮かび上がる、無痛分娩中のモニタリング、特にCTGデバイスについての臨床的位置づけについて触れさせていただきました。
無痛分娩ニュースの正しいご理解の手助けになれば幸いです。